花燃ゆ 第三十一回「命がけの伝言」感想 日出様と殺鼠剤というすごい組み合わせ。

humi_catch

金子ありさ氏脚本の2回目ですが、テンポも良く、諸隊から椋梨様まで表パートもつつがなく、奥パートでは美和さんの心情描写が丁寧で、割とおもしろく見られました。というか、これまでで一番見やすかったと思います。

金子さんは、当時の名もなき一般モブさんたちの言葉にならない普通の気持ち、みたいなのを要所要所にちゃんと入れてくれるのでドラマが見やすいですね。いちいち自分が突っ込まないで済むし、ドラマの横幅がぱっと広がった感じがしました。これまでは文の心情をきめ細かく描くというミッションのせいでに、息苦しさ、せせこましさが強かったから。

ただ、全体をまとめるためにかなり強引な作為がされてて、それで時々アレっとなるのが残念でした。

横の広がりが出せる、テンポよくドラマ展開できる、というところは大河向きだと思うので、金子さんには朝ドラなどはやらず、木曜時代劇、年末スペシャル時代劇、映画で腕を磨いてほしいです。

これは本気で言ってるんですが、大河ドラマにとって朝ドラは害悪になってきてます。これ以上、朝ドラで評価を得た脚本家、俳優を大河に持ってくるのはヤメレ。かつてはそれで成功したのかもしれないけど、もう今はそうじゃありません。

実績という名の成功体験のトレースするのは間違いではないが、手法にも賞味期限はあると気がつけと。

…とNHKへの愚痴も一息ついたところで、実際のドラマがどうだったか見てみましょう…

スポンサーリンク
ad

誕生と死

●実は、のっけから池秀に「長州では粛正の嵐が吹き荒れた…」とか言われて吹いちゃいました。全然吹き荒れてる感じがしない。

こういう時は、寒々しい納屋に隠れた薄汚れ、疲れきった志士を、乱暴に取り締まり、それを見てひそひそする民衆、志士の家族は村八分にされ挨拶もしてもらえない、畑も荒らされて…というような描写を入れるもんですが、もう昔の荒々しい日本を再現するのは現代日本人には無理なのかもしれませんね。こんなところで戦後の平和を実感してる場合じゃないんですけど。

●美和は、銀姫の信頼を得て、懐妊の見舞い品の管理などで忙しくしていますが、野山獄の伊之助のことを案じるあまり、仕事中にぼんやりして叱責されたりしています。「今の私は飛んでいく事もできません」と述懐したところでOP。

●藩政の指導者となった椋梨様は、なんとか幕府に謝罪して許してもらおうと画策しています。

ドラマ内では全然触れられていませんでしたが、一回目の長州征討は脅しの意味合いが強く、間に薩摩の西郷吉之助が立って両者の仲介をしており、実務者協議でいろいろ話し合われていました。

そこで出て来た落としどころが複数あってわかりにくいんですが、

・藩主親子のお詫び
・山口城の開城
・三条實美ら禁門の変で京都を追われた五卿の長州追放
・攘夷派家老、参謀の切腹・斬首
・諸隊の解散

で、すごく条件がゆるいんですね。つまりガチで戦争をする気はなく、長州藩内の攘夷派の粛正が目的でした。

もし幕府の力が十分にあったなら、長州藩はさくっと取り潰しだったでしょうし、そこまでいかないにしても藩主親子は幕府側の軍門で総司令官に直接お詫び、山口城どころか萩城の開城くらいやったはずなんですよ。でももうそんな力は幕府にはない。

実は藩にも力が残ってない。長州藩の最大軍事力である諸隊(高杉晋作創設の奇兵隊、禁門の変で死んだ来島又兵衛創設の遊撃隊など)は、解散に応じません。

諸隊が藩の解散命令に従わないって言うのもわかりにくい話ですが、諸隊は藩の正式の常備軍ではあるんですが、藩の正規軍とは少し違っていました。まず、指揮決定は隊の指導者たちの合議によるものでした。ちなみに藩の正規兵が2000人のところ、諸隊は合計5000人。もともと攘夷派によって創設されてますので、反対派閥の椋梨の命令に応じる謂れがない。,,,,,,,しかも、戦力的には正規兵の倍以上で、火兵・砲兵が中心の強力な軍隊ですから、椋梨様も強引な手は取れないんです。

国を武力で支配していた武士が、農民・町民主体の軍をどうしようもできない、ということが武家政治の終焉を表しています。

●で、奇兵隊現総督である赤根武人は、残念ながらそういう事がわかってないんですね。(制作もわかってないっぽいけど)。

彼は隊を解散して穏便に事を治めようとするんですが、諸隊の意思決定は合議制なんで、これがまあちっともまとまりません。「攘夷の火を消すつもか」「今まで死んでいった人たちに面目が立たない」などなど、などなど。

杉家の末っ子の敏と伊藤俊輔はこの様子をみて「これをまとめるのはあの人しかいない」と高杉を思うのですが、その高杉はどうしているかというと、野村望東尼の元にいて、長州の事を思っていました。

●結局諸隊が解散を断ったため、椋梨様は見せしめに伊之助の実兄、松島剛蔵を斬首します(ここは史実と異なっていて、実際の松島剛蔵は高杉晋作が挙兵してから見せしめに殺されています)。

松島の兄上は「幾多の波を越えて来た、今日この先へ行く」と詩的な言葉を残して亡くなります。変な話ですが、ここで急に長州が「海洋」に面した国であるということを感じさせてくれたのは面白かったですね。地政学的な意味で。

●美和さんは、松島の兄上の斬首を姉の寿さんに知らされて呆然とします。伊之助からは「自分の死後、子供たちを頼む。不自由をかけるが武士の妻として胸を張って生きてくれ」という遺言めいた書状が届き、寿さんは美和に、なんとかお前の力で夫を助けてくれと膝をついて頼みます。もちろん美和さんにそんな力はありません。

ここまで、世嗣君の嫁の懐妊という祝い事を得ながら、藩士たちを惨死させる、という誕生と死という枠組みのなかでストーリーが進みます。

この狙いはなかなか良かったんですが、世継ぎ誕生のめでたさを財政難の中でもなんとか通常通りにやりたい、くらいにしか表現にしかできなかったのがもったいなかったですね。銀姫、都美姫が生まれてくる世継ぎに希望をたくす、赤ん坊が生きていく時代を思いやるというような場面があればもっとドラマに奥行きが増したし、高杉の「長州の魂が死にかけている」という台詞ももっと生きたと思います。

全体的に揺さぶりが足りないんだよね。

でも、場面転換がうまくスルスルーっとしているので、のどごしよく見れちゃうんですよね。よくないですけど。

高杉晋作が戻ったぞ

●解散を断った諸隊ですが、今後どうするかでは相変わらず揉めています。そこにバン!と襖を開いて「戯れ言じゃ!」と乗り込んでくる男が一人。

高杉晋作です。

高杉は、

「諸君らに問う、戦うべきときいつか、今か先か、先なら大業の見込みはあるか、戦うか、引くか、選べ」
「高杉家は毛利譜代の家臣、わしは毛利の誉れとともに生きる」
「わしに馬をくれ、わし一人でもいく」

と懸命に畳み掛けますが、これは完全にスペってしまいます。毛利の誉れとか突然言われても…という空気が流れて居たたまれない。

●その頃、野山獄でしょんぼりしていた伊之助に、司獄の福川様が上司に内緒で寿からの差し入れの白米のお握り(!)を届けてくれます。いやーお握り久しぶりww いやこれがもうどうみても現代の白米であることにもわらっちゃうんですが、でも貴重な白米のおにぎりを獄中の夫に食べさせたい、という寿さんの心意気はわかりました。
お握りの下にはこっそり手紙が折り畳まれていて、「必ずあなたは助かります」と励ましの言葉が。
伊之助はお握りをむしゃむしゃと食べて元気をチャージします。

獄の外では雪の中に立ち、夫を思いやる寿さんの姿がありました。

●で、この寿さんに降り掛かる雪が功山寺の高杉晋作につながっていきます。

高杉晋作は下関では珍しい大雪の中挙兵するんですが、雪は、赤穂浪士の討ち入り、桜田門外の変を連想させる、つまり変化の兆し、功山寺挙兵が成功することの前触れの記号になります。あ、後世の我々から見て、という話ですけど。
雪は、劇中の演出としても絵になるし、これがまた史実で、なにか神秘的な感じがするっていうのもいいところです。

その雪の中で、赤根武人は奇兵隊は挙兵に加わらない、と高杉に告げます。ここで赤根と高杉の見えてみるものの違いなどが静かに描かれてなかなかいい。この二人の交流の積み上げがないので、袂を分かったという感慨が見ている方に生まれないのは残念でしたけど。

日出様の用意する破滅の道が分かりやすすぎた件

●杉家では梅兄様が、伊之助の処刑が翌々日に決まった事を知らせます。がっくりする梅兄。

母の滝さん 「いつまで長州人同士で傷つけあるんじゃろうか
父の百合さん「このままでは長州は滅びる

一般の長州の人の気持ちを両親が代弁します。

●美和は、伊之助の処刑の知らせを奥の掃除中に受け取り、呆然とします。

美和の様子を見ていたお半下の女中さんたちは非常に気の毒がります。こういうモブ(高橋由美子さんだけど)を段階的に、美和の肉親→周囲の人々と使っていくのはうまいよね。普通のことかもしれないけど、ぜんぜん今までなかったから貴重に感じる。

で、この様子を意地悪担当の日出様がしっかり見ています。

●嫁の懐妊にすっかり浮かれていた都美姫は、幕府による長州征討の折り、財政難なので、懐妊祝いは自粛してほしい…と表から言われて軽くぶち切れ、女将を…じゃなかった椋梨様を呼びつけます。

日出は、美和に椋梨が翌日奥に来訪することを告げ、「私も兄を亡くして後悔しています…」と、自身の過去を語ります。

それが「自分は岩国の貧しい小百姓の子だったんだけど、何の因果か奥に勤めることが出来た。兄が会いに来てくれたのに、みすぼらしい出で立ちを罵って冷たくしてしまった。それが兄と会った最後になり、後悔している」というベタなもの。

で、そこまで言われた美和さんは、日出に警戒しながらも「私も後悔する別ればかりで」とちょっと応じて言葉をもらし、日出様はここぞとばかりに「あきらめてはなりません」と、美和に殺鼠剤(!)を手渡します。

これで椋梨様を毒殺しろと美和を唆してるんですね。

いや、すごいねww というか、日出様と殺鼠剤という組み合わせの妙がまたいいですww 気に入らない人間がいたら、この殺鼠剤でいろいろしてきたに違いないww と思わせる日出様の人徳w 多分、オブライエン姉さんはこんな足が着くようなことはしないww

と、思わず笑ってしまったけど、この日出様って美和さんのネガなんですね。日出の登場は美和さんの変化の表現なんでしょうかね??

●その夜、美和さんは心が揺れて眠れません。おもわずふらふらと起き上がり、明日の酒宴で使われる酒器のところにいって、殺鼠剤を取り出し…

●翌日、奥にやってきた椋梨様は、都美姫の接待の席で「そなたは久坂殿の…」と美和さんに目を留め、一献をすすめます。実は酒宴の前に、日出が椋梨様を呼び止め、注意するよう伝えていたんですね。まあつまり罠でした。

美和さんはたっぷり溜めを取ってから薦められた杯を飲み干します。

ハラハラしていた都美姫・銀姫は「なんですか、お毒味みたいなことさせて」と憤慨します。

ここで美和さんが爆発! 椋梨に伊之助の助命を懇願しはじめます。

なんと「私の命をかわりに」とまで言うのは良かったんだけど「これからの長州を背負って立つお人です」とか…いや椋梨様もここで薄ら笑いしてたし、分かってて言わせてるんだと思うけど、どうして美和さんはこうイチイチ上から目線なんですかね…

●美和さんは無礼がすぎて牢に入れられ、奥も首になりそうになります。日出は「私には兄なんかおりませんし」とシレっと自己フォロー。凄まじいシーンではありましたが、なかなか見応えもありまして、それはやっぱり井上真央さんの演技

日出に罠にはめられそうになったことや、仇とも言える椋梨を目の前にして、さらに伊之助の処刑…と、動揺の極みに達し、追いつめられた女性の目の据わった感じとか、自分を止められなくなりつつある女性の葛藤と爆発は、非常に迫力がありました。ものに取り憑かれたような感じ出ていて、すごく良かったと思います。

ただ奥方、若奥、奥の女たちがホステスのようにずらずらっと居並ぶ日中の酒宴接待についてはだめだ。ぜんぜんだめだ。

至誠そのもの…?

●牢に御自ら叱責に現れた銀姫は、「和子のために尽くすと言ったのに、私事で事を起こしおって。恥を知れ」と美和をひっぱたきます。あーなんか「」って言葉を久々に聞いたわ。

銀姫は大変お怒りでしたが、美和が命に代えても伊之助を助けたいと思っている気持ちを汲み、処刑前に内緒で面会してくるように促します。美和は「初恋の人でございます」と本心を明かし、なんか銀姫の乳母の潮さまも、初恋ならしょうがない、みたいな顔して協力しちゃうんですけど、もう「花燃ゆ」だからしょうがない。この後の展開もすべてわかっちゃうけどしょうがない。

●銀姫の協力を得て、野山獄に駆け込み面会する美和。対する伊之助、二人の魂のポリフォニーが始まります。

もう何度となくドラマ内で演じられて来たアレを、これまた渾身の力で演じる二人。

これがもう感情ダラ流しの天下一武道会みたいになっちゃってて、前の回よりも強く感動的に!! と課せられた脚本家と俳優がほんと気の毒でした。一応台詞を書き留めて置いた限り書いておきます。

「兄上がどう生きてこられたかわかります。私にとって兄上は空のような人。いつでも見守って、気がつけば側におって、大事なものをくれた。寅兄に友情を、久坂には(なんだっけ? 寿姉さまには家族をくれた。小田村伊之助さま、あなたは至誠そのものです(ドヤァ)」

「兄上のような方がいなければ、皆をいたわってくれる人がいなければ、この先、この国はどうなってしまうのでしょうか」

これを、松蔭が獄の壁に刻んだ「至誠」の前で言わせるというベタベタな演出にめまいがしましたが、伊之助の返し。

「まだあの男がおるではないか、村塾一の暴れ牛が。美和、見届けてくれ。この国が変わり、皆に笑顔が戻る日を。誰も恨むな、この国にともに生きるものとして愛してやってくれ。幸せになってくれ」

司獄の福川様が痛ましそうに二人を見ています…

●翌日、伊之助は牢から出され、刑場にしょっぴかれますが、福川様が「今日は毛利だれそれさまの命日。そのような日を罪人の血で汚していいのでしょうか」と渾身の一策で上司のダンカンさまを止め、処刑を保留させることに成功します(心の声:ねーよ!ねーから!!)。

●藩庁では殿を前に、藩議が開かれているのですが、椋梨様が幕府への恭順しか長州が生き残る道はないから、と粛々と粛正を進める様に背を向ける敬親公(これもちょっと意味深い演出になってます)。そこになんと高杉挙兵の知らせが!!

伊之助の処刑は延期される事になり、命をつなぐことになります…

創作と史実の間

レビューにまとめきれなかった今回のあかんところ。

●日出に嫌がらせされている事を銀姫に全く報告しない美和
●突然振ってわいてでた山形狂介
●若君・毛利元徳くんの扱い。最後、お使いのように息せき切って高杉挙兵を知らせますが、この演出は、実は元徳君の諸隊・攘夷への支持をうっすら表現しているんだよね???
●馬上から、五卿に「長州男児の肝っ玉」発言をする高杉晋作。兜をとって膝まづいてちゃんと言わせればいいのに。もうねー絵面が強烈に変でした。拙いにも程がある。

こんなひどい細部でも、いや細部じゃないけど、史実20%、創作80%の花燃ゆでは、史実と創作の隙間を破綻させずに繋ぐ事が至上。破綻していないように見えるってのが大事なんですな…

でもこの弊害が細部に(細部でもないけど)出るんですけど。NHKよ。「神は細部に宿る」ですぞ。

実際、こだわらずにさらさらーっと見ようと思えば見られるんですよ。私もメモをとりながらガッツリ見るという視聴スタイルではなく、猫をモフモフしたり、チューハイをあけたり、ふくらはぎマッサージなんかしてたら、まったく気にしないと思います。

でも大河ドラマの視聴ってそうじゃねーだろ!

まあこれでも今回は見やすかったんだから大したもんですわ。というわけで、今回もギリギリでごめんなさい! アデュー!

スポンサーリンク
ad

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

スポンサーリンク
ad