奥山でんでんが、小野政次を切りつけて返り討ちにされてしまうという衝撃の9回ラストはすごかった。
直親が側室を迎えるにあたってしのちゃんを諭す、桶狭間から戻った際は戦の悲惨な様子を伝えるなど、多少感情にムラがありそうではあったけれど、まっとうな家臣として描かれていた奥山どのが、次第次第に狂気を帯びていく様子から、
どうせ殺意があるなら毒殺でもすればいいものを、恐喝→逆ギレのあまり切りつけるという凶行に及ぶまでの心理をしっかり描写していたので、すでにストーリーブックを読んで、この先を知っていた私ですらハラハラしてしまったよ…!
でんでんがキャストされながら生かしきれていないと不満を訴えていたTLも震え上がりつつ満足していてワロタ。でんでん、最高でした。ありがとう。
心が戻ってくる
10回も見所がたくさんあったけれど、私には直親が心を取り戻す描写が一番印象に残った。
直親が心を取り戻すきっかけになったのは、義父・直盛の死ではなく、妻・しのの子供のようなむせび泣き。そこからかつての自分の泣き声がリフレインしていき、素直な自分の感情に次第にアクセスできるようになっていく。
9回で、多くの人が義父・直盛の死にも涙を流さず、心が動かない直親の描写を指摘していたのだけど、今になって画面を見直すと、直親自身もそのことに戸惑っている、という表情を三浦春馬さんがしてることに気がつく。
割と初期の段階から、彼が逃亡先でせざるを得なかった苦労は垣間見えてはいて、しかし言葉では語られない彼の闇を、三浦さんがちゃんと演じていて、また演出もそれを信頼した作りになっていた。
また、自分がひどく傷ついている間は、本当に他人の気持ちを慮ることはできない、という考察は昨年の茶々のリピートでもあった。
直親は感情を取り戻すことで、しのや次郎、政次といった周囲の人々の気持ちを初めて思いやり、次郎に彼女の望みを聞く。本心を語れない次郎にとっては残酷な問いかけでもあるのだけど、二人が生きていくために必要な意識の共有だった。
しのに対しても彼女の気持ちを受け止める。
直親の悲惨な死の直前にこのエピソードが入って本当に良かったとも思うんだけど、それにしても辛い…。
10回では小野政次も救われる。自分を信じてくれた次郎、義妹なつらの信頼により、あえて相手に対して膝を折るという選択肢も受け入れられるようになる。
そして政次も辛い…
スイーツだけど、甘くない
割とあっさり奥山朝利の事件がおさまる一方で、駿府の瀬名姫は命の瀬戸際に立たされる。一難去ってまた一難の典型みたいな…それがまた、桶狭間の敗戦からずっと繋がっている。
小野政次の件でうまく周囲を調整した次郎法師が、今度もなんとかしてみせると果敢に駆けつけるが、駿府ではまるで役に立たない。
ここはすごく面白くて、冒険譚としての戦国大河ではなく、登場人物の人間関係や感情を丁寧に描いていくことに主眼を置いているのに、やっぱり命がかかっていてハラハラする。
こう言うところで直虎は確実に女の子大河であって、男の子大河ではないと思うのだけど、女性の世界がかなりシビアであるように、直虎の世界も甘くはないのだ。
「利家とまつ」以来、女性が主人公の歴史ドラマをどう描くか、という課題はずっとあって、ようやく一つ正解が見いだした感じがする。
ちなみに、「篤姫」を女性大河の頂点としてみる向きもあるけれどあれは一種のフェイクで(篤姫は宮崎あおい大河である)、「八重の桜」は前半の高評価の声が世間に届かなかったのではないかと思っていて(八重の桜の反省から私は大河レビューを書くことにしたんである)、「花燃ゆ」は盛大にこけて未だに痛い。
女性大河がどうあるべきかっていうのは、この先も変化を続けていくと思うのだけど、とありあえず直虎は女性が主人公でもイケメン恋愛要素多めでも見ごたえのある物語を作ることができるし、それは特別なことじゃないっていうのは証明したと思う。