2015年前半最大の外交イベント(になってしまった)、安倍首相訪米の顛末〈3〉

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安倍首相の米上下院合同演説で、いわゆる従軍慰安婦問題などの歴史問題を、対中危機感を強める日米が和解(という名の手打ちに)してしまい、歴史カードを切れなくなった韓国が国家存亡の危機とまで言い出してしまった話のつづきです。

前回はこちら

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 歴史問題の終わり

シャーマン発言、安倍首相の米紙インタビューでの「人身売買」表現、演説での日米歴史問題の和解で、日米は戦略的に「これ以上歴史問題は取り合わない」という態度を打ち出しました。

それに対して「国家存亡の危機」とまで絶望した韓国に対し、私がそこまでじゃないだろうと突っ込むのは理由があります。

韓国にはまだ中国傾斜をやめて米国側に戻り日本と和解するという手も残されているし、日本がどうしても嫌なら中国側へ川を渡ってしまえばいいのであって、ぶっちゃけ米中どちらも別に韓国の滅亡なんて望んでいないでしょ、と思うからです。

もちろん2000代のような発展は難しいでしょうし、中国側にいけば生活レベルは下がるかもしれないし、経済破綻もあるかもしれないけど。

日米が対峙しているのは主に中国であり、今回の歴史問題の和解も主に中国が仕掛けてきた「日本は第二次世界大戦後の国際秩序に挑戦している」というイメージ戦への返答なんですよね。

韓国は従軍慰安婦だった女性をゲストとして演説会場に送り込んだり(マイク・ホンダ議員の招待)、安倍首相の訪問先には韓国系の学生などを送り込んだりしましたが、大きな影響を与えることはできませんでした。

民族主義的な暴言という指摘
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安倍首相が帰国して少しした5月7日、アメリカの社会学者エズラ・ヴォーゲル博士が日本を研究対称とする内外の学者187人の署名と共に「日本の歴史家を支持する声明」を発表します。

これは、日米の和解という演出を受けて、中韓と日米との関係が硬化することを心配した権威在る学者たちによる日本への勧告で、慰安婦問題を政治問題化することがいかに非道であるかを説明したものですが、声明中最も重要なのは下の文章です。

この問題は、日本だけでなく、韓国と中国の民族主義的な暴言によっても、あまりにゆがめられてきました。そのために、政治家やジャーナリストのみならず、多くの研究者もまた、歴史学的な考察の究極の目的であるべき、人間と社会を支える基本的な条件を理解し、その向上にたえず努めるということを見失ってしまっているかのようです。

元「慰安婦」の被害者としての苦しみがその国の民族主義的な目的のために利用されるとすれば、それは問題の国際的解決をより難しくするのみならず、被害者自身の尊厳をさらに侮辱することにもなります。しかし、同時に、彼女たちの身に起こったことを否定したり、過小なものとして無視したりすることも、また受け入れることはできません。20世紀に繰り広げられた数々の戦時における性的暴力と軍隊にまつわる売春のなかでも、「慰安婦」制度はその規模の大きさと、軍隊による組織的な管理が行われたという点において、そして日本の植民地と占領地から、貧しく弱い立場にいた若い女性を搾取したという点において、特筆すべきものであります。

日本に解決を迫るのはよく見る文章ですが、「韓国と中国の民族主義的暴言」を指摘したのはこれが初めてではないでしょうか。

この1年ほどで、大戦中の日本を一方的に責めるのではなく、必ず中国・韓国が寛容を示して謝罪を受け入れるよう忠告する発言が増えてきていますが、各国がこの問題に神経を使いだした背景には、中国への警戒感があります。

歴史問題で激しく日本を攻撃した中国が、実は最も「戦後秩序に挑戦している民族主義的な覇権主義国家」ということが浸透した。

とうとうアカデミズムによる、日本に向けての文章ではありますが、それでも中国・韓国に対して、自国の民族主義のために被害者女性の「尊厳を侮辱」しているとまで書くようになった。

今後は、歴史問題に対しては和解、謝罪には受け入れ・寛容などがセットに語られるようになるでしょう。

ちなみにヴォーゲル声明の全文はこちら

歴史問題というベールが外れたら…

さてAIIBに加え、歴史問題でも日米に切り返された中国はどうしたか。

ロシアと接近しました。

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双頭の鷲はビザンツを継承するロシア帝国の紋章

クリミア併合でEUとアメリカから経済制裁を受けていたロシアは、もともと中国と接近していましたが、日米の歴史和解後はロシア外相が中国に歩調を合わせて。「北方領土はロシアの領土、日本は難癖を付けている」と日本を非難したりしはじめました。

中国と対峙しながら北方領土回復を目指す日本としては、中ロの接近は頭の痛いところです。

韓国は、安倍首相の訪米中に朴槿恵大統領が胃けいれんで入院し、突発的な反日・反米の高まりに大統領が直面すること事態を避けました。

これはこれですごい政治判断だと思いますが、この判断をもっと早くにしていたらこんなことにはならなかったよね。

5月15日、ケリー国務長官がロシアに続いて中国を訪問し、南シナ海の珊瑚礁埋め立てを取りやめるよう交渉しますが決裂。

その後は韓国を訪れて6月の朴槿恵大統領訪米に向けての調整をします。

韓国は、この6月の大統領訪米がTHAAD配備についての返答のリミットでしょうか。

(4月に訪韓したカーター国防長官はTHAADはまだ生産中とか言ってたのにね)

5月21日、南沙諸島の珊瑚礁を埋め立てて作られた中国の人工島にアメリカ軍が監視活動を行い、その様子を世界に公開。

中国はこの施設が軍事施設であること、一戦も辞さないことを表明します。

歴史問題に和解で区切りを付けたら、どの国にもパワーゲームの生々しい現実ががっつり迫ってきましたね。

習近平主席の訪米は9月です

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そんな感じに、6〜7月は米中が南沙諸島でにらみ合い、原爆投下、終戦のあった8月は静かにすごして9月の習近平主席の国賓訪問で首脳会談で南沙諸島問題について話し合うのだろうというアメリカの思惑が見えてきました。

中国はメンツにかけても、安倍首相訪米時と同じか、それ以上の待遇を求めてくることは確実ですし、上下院合同会議での演説もあるでしょう。

そこで習近平は、安倍首相以上に魅力のある何かをアメリカに提案できるのか。

相も変わらず「広大な太平洋には米中二カ国を受け入れる十分な空間がある」と繰り返せばバカのそしりを免れないと思います。

中国はこれまで世界史に「普遍的な価値観」を提出できたことのない国ですが、ここで死力を尽くして一皮むけてほしいところではあります。

まあ弱腰のオバマ大統領が日本のはしごを外してしまう可能性も十分あるのですが、さてどうなるか。

9月が楽しみですね。

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